名古屋高等裁判所金沢支部 昭和26年(う)492号 判決
しかし同弁護人は原判決が判示第八の(ロ)の事実につき挙示する長井敬之の検察事務官に対する第一回供述調書は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の書面ではないのにこれを同号但書により証拠として取調を為し右(ロ)の犯罪事実の証拠として採用したのは違法である旨主張するので記録を調査すると、同供述調書は原審第十八回公判期日において検察官から同調書の内容が、原審第十一回公判期日における長井敬之の証言と相反するか又は実質的に異るとして刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の規定により原審に対し其の取調を請求し弁護人らは右調書の証拠能力を争い其の証拠調に反対したのを排除した原審は右証拠調の請求を許容し且つ右判示第八の(ロ)の犯罪事実認定の証拠に採用したものである。そこで当裁判所は右供述調書の供述が為された検察事務官山本光昭が検察官事務取扱の権限を有する検察事務官であるか否かを立会検察官に釈明した結果その権限を有しない者であることが明になつたのである。そうすると同人に対する右長井敬之の供述調書は前記法条の第一項第二号の書面でなく第三号の書面に過ぎないこととなるので同書面を第二号の書面として其の取調を請求した検察官の行為及び之を許容した原審の証拠調の決定は証拠調の手続規定に違反するのみでなく、同供述調書を犯罪事実認定の証拠に援用した原判決は採証の法則に違反することは明白である。よつて右論旨は理由があるけれども、翻つて同供述調書を除いても、前記の如く其の余の証拠により判示事実を肯定し得られないでもない結果原判決を破棄する要がないことに帰着するのである。